「doodle」を「ドゥドル」と翻音した。これぞ世紀の大チョンボ

トロンボーンや〜めた

もちろん今はトロンボーンが大好きだ。しかしトロンボーンを始めた15才くらいからずっとそれが嫌いだった。子供の頃から手先が器用で、絵でも工作でもこの子は器用だ上手いもんだといつもほめられて育った。その私がこの楽器を持ったとたん不器用でこの上なく下手。サックスやクラリネットだったら指先で何でもできてしまう。それだったらどんなに良かったか、いつも羨ましく彼らの奏でる音楽を横目で見ながら聴いていた。彼らが小指の先ほんの数ミリを動かせば済むことも、こっちは容赦なく腕を大げさに振り回さねばならない。ほとんどメロディを演奏することもなく、滑らかなレガートや16部音符には手も足も出なかったりと、散々な日々は今思い起こしても不愉快きわまりない。

やがてある時、トロンボーンという枠の中で飼いならされ、枠から出ようとする気すらなくなってしまった自分が無性に腹立たしく思え、うやむやのまま40代後半からトロンボーンを触らなくなってしまった。当時はそのまま辞めるつもりでいた。


憑依されたか

変化が訪れたのはじき還暦という頃、後輩のトランペット吹きが糖尿で亡くなって一年くらい後の事、共通する友人に吹きにいきましょうと誘われた時、どうせ下手だし、十年も吹いてなけりゃ音も出ないだろうしと思いつつも、彼ら夫婦にも何十年ぶりかで遭ってみたいと思い直し出かけることにした。そこは初めて皆が出合った場所だ。音出しを始めるとなんと、昔は大変だった「Hi-Note(W-Hi-Bb)」が拍子抜けするほど軽々と出るではないか。なんだかその亡くなった後輩に「トロンボーン続けてくださいよ」と励まされた気がしたが、きっとそうに違いないと今では思っている。

これに気を良くした私は、仕事から帰るとミュートを付け毎日一時間づつリハビリ練習を続けた。ミュートを付けての練習はオーバーブローになりやすいので気をつけよとのこと。


テクニックはタンギング

やがて過去に到達したことのない領域に居るのを感じた私はタンギングこそテクニックそのものと確信し始めた。遅きに失しているとはこのことか、でも仕方がない。それからはネットで色々検索をし始めた。するとJAZZ系では「Doodleタンギング」が主流で大方のプレーヤーはこの方式を採用しているらしいと分かった。


レガート・ダブル・タンギング

検索中、あるクラシック系トロンボーン奏者が「ドドドドドド」というタンギングができない為にトロンボーンを辞めることとなった優秀な学生がいたと言っていた。このタンギングとは一体何なんだろう。彼は建設用の削岩機だったか地ならし機の音を示してこれと言っていたので、トロンボーンの演奏法としてどういうものかさっぱりだ。想像を巡らし、ダブルタンギングの滑らかなやつと考えると、一般的には「TK」の「T」と「K」の発音でタンギングをするのだが、聞こえてくる音にはまったく差異がわからないものを言う。それが連続しているということで、これを「レガート・ダブルタンギング」としておこう。

このタンギングの名手は私の知る限りではトミー・ペダーソン(Trombone)です。彼の「Flight of the bumble bee」をお聞きください。色んな方の演奏のほとんどが「パカパカパカパカ」と「お馬の親子」みたいに聞こえますが、ペダーソンの演奏はまさにスバラシイの一言です。この人はルイ・マジオ(Trumpet)の弟子で、同じくトロンボーンのアービー・グリーンやロイド・エリオットなどとも兄弟弟子の一人です。学べることは多いのに残っている動画が少ないのはとても残念です。



ボブ・マクチェスニーも「The Carnival of Venice」(URBAN教則本の最後の課題曲)でスバラシイ「レガート・ダブル・タンギング」を聞かせてくれています。ところがなんとマクチェスニーは、ここで使っているタンギングは、「Doodleタンギング」と同じであると、驚くべきことを言っている。



「K-Tangue-Modified」と「Syllable」

ネット検索で特筆すべき情報として「K-Tangue-Modified」というのがあった。これはあるクラシック系のトランペト奏者のサイトでしたが、これをセルフトレーニングしていた彼がたまたまアルマンド・ギターラ(Trumpet)のレッスンを受けた時、彼から特に問題はないとアドバイスを受け自信を持ったと言っていた。そのギターラのコトバからもそれが基礎的にとても重要なことだろうぐらいには思えたが、その彼はサイトの中でも「K-Tangue-Modified」についてはなにも言及していないので、まったく分からずじまいだ。ギターラは「K-Tangue-Modified」ができているかどうか、音を聞けば分かるといっていたそうだ。タンギングを聞けばとはいっていなかったので、この辺りにヒントが隠されているかも。

一つ疑念が湧いて来た。タンギングがテクニックであるならば、それは最も素早いものでなければならないはずです。それを実現するには演奏中いつでもそれができる状態を保っていなければならない。ここで疑問が氷解した。要は「K-Tangue-Modified」というのはタンギングというアクションそのものではなく、素早いタンギングを可能とする口中の待ち受け状態のことと考えればよいのではないか。さらにその状態で音を出すとギターラには聞こえるある特徴的な音色を示すということだ。さてこの音色とはいかなるものか。また、ルイ・マジオのいう「Syllable」というのは「K-Tangue-Modified」の状態を保ったまま、口中の空気圧を制御することで音域に変化をもたらす方法と解ける。


ニワトリに教わる「Doodleタンギング」

ある音や動物の鳴き声が異なる言語話者にどう聞こえ、いかに発音されるかという問題に取り組みたい。思いついたのがジョン万次郎という人です。彼はその昔、言葉の通じない米国で米語の発音を日本語の発音に置き換えたノートを作り会話を覚えたそうです。翻訳ならぬ翻音とでもしておきましょうか。例えば「掘った芋いじるな」→「What time is it now?」はとても有名ですが、普通に通じるというからすごいです。これ式で考えたら良いと思い立ちました。

さてニワトリの鳴き声をサンプルに話を進めます。ニワトリは世界中「コケコッコー」と鳴くに決まっていると思い込んでいた子供の頃の私は、米国のニワトリが「Cock-a-doodle-doo」と鳴くと教えられた時は天地がひっくり返るかと思った。それでも、あの頃テレビで視た西部劇のニワトリだって「コケコッコー」と鳴いていたぞ、とねじ込んでも当の本人には「Cock-a-doodle-doo」と聞こえているというのではどうしようもない。しかし、彼らにそれを発音させると、あ〜ら不思議「コケコッコー」と聞こえるではないか。なんだやっぱ「コケコッコー」じゃんと思った。

 ・「Cock-a-doodle-doo」
 ・「コケコッコー」

幸いなことに、米国のニワトリの鳴き声には「doodle」が入っていて「Doodleタンギング」そのものです。普段から「doodle」と鳴くニワトリは、「Doodleタンギング」の天才か?ま、あの嘴(クチバシ)ではロクな音は出せまい・・・ふふふ(想像するなよ)ということで、この日米二つの発音を並べて比較すると、米語「doodle」=「コッ」と日本語では発音することが分かった。

ただ、今回の翻音にも少し問題がありました。「コッコッコッコッ」を連続させるとマクチェスニーの言う「Doodleタンギング」とも「レガート・ダブルタンギング」としても違和感があります。そこで万次郎のように想像力を発揮して「コッ」の「ッ」は「dle」でしたので、息が流れる「ル」としても良いかと。そこで「コッ」の「ッ」をいきなり「ル」と置き換えますが、「ツ」と「ル」の間くらいの音を当てたほうがいいか、「コ」も「doo」との間くらいで調整して試してください。丁度「K-Tangue-Modified」もどきでいいですね。

「コルコルコルコル」

素晴らしいです。

要するに「doodle」を「ドゥドル」と翻音した。これぞ世紀の大チョンボだったわけです。 誰だ全く、日本中のトロンボーン吹きが騙されたぞ!

この「コルコル・タンギング」を命名するなら「Rooster(雄鶏)タンギング」とするか、でもせっかく日本語発音で解いたのだから「鶏(Kei)タンギング」がいいかも。音も「K-Tangue-Modified」っぽいですし。これでようやく「ドドドドドド」という「レガート・ダブルタンギング」も解決できたかもしれません。さらに、あらゆる音域での練習が必要です。音域が広いと人の倍とか何倍も練習しなければなりませんよ。


まとめ

 ・「K-Tangue-Modified」とは、素早いタンギングを可能とする口中の待ち受け状態のこと
 ・「Syllable」は「K-Tangue-Modified」の状態を保ち口中の空気圧を制御し音域を変化させる方法
 ・「鶏(Kei)タンギング」とは「コルコルコルコル」と発音する「レガート・ダブル・タンギング」

「Doodleタンギング」とは「K-Tangue-Modified」+「Syllable」+「鶏(Kei)タンギング」のことでした。

「Doodleタンギング」を発明したのはカール・フォンタナであろうと思いますが、彼はニワトリの鳴き声を真似して「Doodleタンギング」をしていたわけではないでしょう。自身のタンギングを他人に尋ねられ、説明するのにニワトリの鳴き声を引用し、それが人づてに拡散する時に「Doodleタンギング」と象徴化され一般化に至ったものであろうと考えます。

つまり「doodle」にのみ拘るのではなく、タンギングがテクニックであるならば、今後も新たなタンギングが出てくる可能性を秘めています。私たちはどんなタンギングでも待ち受け可能なそしてそれを常に最速で演奏する為の方法を確立してゆくべきなのかもしれません。もちろんあらゆる音域で。



もっと自由に

ビル・ワトラスが「La Zorra」の中で使っているタンギングは何種類かありますね。私が聞いた感じでは「鶏(Kei)タンギング」を標準的に使っているみたいなので、これを中心にするのはOKかもしれません。次にカール・フォンタナの「Warm Up」という動画を見てください。とんでもなく早いタンギングですが、彼がマウスピースの中でなんと言っているのか聞き取れますか?



「ルクラ・ルクルカルカルクルカルク」と私には聞こえる・・・・

もはや「Doodleタンギング」とは考えられません。やはり彼は「Doodle」では説明がつかない領域に突入していたのかもしれません。



次回はアンブッシャーについて考えてみたい

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